主催者不在の、コロナ禍の中での、音楽イベントの作り方
なぜ、私がこの記事を書いたのか
演奏家は演奏だけに集中するべきなのです。
ここまでお読みになった方は、すでに感覚が麻痺して、
「公演が成功なら、何が問題だったの?」
「できることをできる人が分担したんでしょう。適材適所です」
などとおっしゃるかもしれません。
ちょっと待ってください。
例えて言うなら、
イベントのゲストとして招致したマジシャンが、イベント全体のスタッフの弁当の数を数えますか?
主賓として招いた落語家が、「受付」「当日券」の垂れ幕をイベントの日の朝に自宅で印刷して貼り合わせて持参しますか?
ディナーショーで歌うタレントが、楽屋の場所を知りたいがために自分の足で会場がある建物の事務所まで出向いて必要書類を取り寄せますか?
(上記すべて、「招待されたアーティストである」私がやったことです。)
そういうことです。
私たちは、演奏をする人です。
今回のイベントにしろなんにしろ、出演を依頼されれば
「音を作ること、演奏をすること、お客様をステージで楽しませること」
そのことだけに集中するべきであり、集中できるよう主催側が配慮するべきなのです。
この長い記事を書かねば、と決めた瞬間があります。
前ページで書いたように、終演後にエルザ(そしてエルザのお母様)がたくさんのご馳走を用意して、部屋を予約して、打ち上げを開いてくださいました。
いろいろあったけど、無事に、成功裏に終わった。
その安堵感で和やかに話が弾む出演者たち。
遅れて、A氏が顔を出しました。
みんな大人ですから、拍手で迎えます。統括の挨拶もしていただきました。
(「何を言っているのか全然わからなかった…すごい、ある意味才能…」と後日娘が述懐していました)
さて、そろそろお開き、という頃、唐突にA氏が
「僕は、こういうの、あと5回、申し込んどるんじゃけえ!
5回!!」
と、まるで幼児が「僕、5才!」と言うように指を5本広げて、無邪気に得意気に、満面の笑みで叫んだのです。
出演者は皆、見てはならないものを見るかのように顔を伏せるか、自分は関係ないという風に横を向きました。
最低でもあと5回、私たちと同じ苦労をする人々が出る可能性がある…!
終わったことだからすべて忘れよう、もうA氏からの話は金輪際請け負うことはないのだし。
…と思っていた私ですが、「5回!!」の瞬間に「書かねば」と決めました。
知らずに巻き込まれるよりも、こういうことになる、と知ってて巻き込まれた方がいい。
今後A氏が宇部市に申請するであろう、数多くのイベントに、スタッフとしてまたは出演者として参加するであろう人々に「知る機会」を与えたい。
お願いがあります。
市民主導のイベントを推奨している自治体へ。
市民が自分の手でイベントを企画し、それを実現してもらう。そのために会場を貸し出し、資金を助成する。
そのアイデア自体は素晴らしいと感じます。
しかし、応募した市民が「何もしない(=不作為である)」ことで、招致したプロのミュージシャンやスタッフたちに大迷惑がかかることがある、さらには公演自体の開催が危ぶまれることがある、という認識は常にあってほしいと思います。
音楽のイベントを主催、企画運営する方々へ。
企画の趣旨や目的
「何を」やるのか。
なんのイベントなのか、を説明できるようにしておいてください。
そうすることで、出演の依頼があった演奏者は、それに見合った演奏をするべく動き出すことができます。
情報を、思いを、出演者と共有する努力をしてください。
「なぜ」やるのか。
目的をはっきりさせてください。
今回は、A氏曰く
「僕は、大きな音楽のイベントをやりたいです、これは、その練習台です」
ということでしたが、これでは答えになっていません(それどころか、かなり失礼な話です。実際、これで怒った出演者もいます)。
「僕は、イベントをやりたいので、イベントをやります。」としか言っていないのです。
しかしながら、A氏からは
「宇部市が助成するから、宇部市に配慮した文言とアナウンスをたくさん入れたい」
「宇部市で頑張っている音楽家を応援したい」
という発言も見られたので、
宇部市のため
宇部で活動している音楽家のため
という、目的があった、と察することができます(音楽家を応援するどころか、心配事と雑用を増やしている件はここでは置いておくとして)
誰に向けてやるのか。
今回のイベントは、
「誰に来て欲しいのか」
「どういった方に楽しんでいただきたいのか」
という話は、ほとんどA氏から聞くことはできませんでした。
おそらく、A氏にとっては
「将来大きな音楽イベントを成功させるであろう自分」
「助成してくれる宇部市」
へ向けたイベントであり、それ以上でもそれ以下でもなかったため、どのようなお客様がお見えになるのか、という視点は抜け落ちていたのだと感じています。
そのため、
「お客様にどのようなメッセージを伝えるのか」
「どのような構成なら楽しんでいただけるか」
という大事なことは、出演者だけで話し合うことになりました。
イベント主催を考えておられる方は、このあたりの視点もぜひ持っていただきたく思います。
主催者としてのふるまいと責任。
自分の能力を見極める。
イベントを主催する人には下記の能力がある程度備わっていることを、周囲は期待します。
能力が足りない場合は、補助する役割の方を探してください。
しかし、それは決して出演者の役割ではないことは、理解してください。
自分の持っている情報は、もしかしたら出演者やスタッフに必要かもしれない、と想像する力
その情報をこまめに連絡する、シェアする力
誰に何を伝えたらいいのかを見極める力
全体を把握する力
皆をまとめる力
問題が起きた時に解決する力
自分のスキルを整理する。
上記の「能力」は「資質」とも言い換えることができるような部分でした。
ここで言う「スキル」とは、もっと細かい、「学べばできるようなこと・技術」です。
具体的に必要なスキルは、以下のようなものです。
連絡のためのスマホは使いこなせるか
SNSの使い方、連絡用のアプリの使い方を知っているか
書類の作成能力はあるか
作った書類をプリントできるか
必要なもの、やらねばならぬことの整理ができるか
立案からイベント当日までの計画が頭の中で組み立てられるか
イベント当日から逆算しながら計画が遂行できるか
上記のスキルに自信がない場合は「何もせずに誤魔化す」のではなく「できる人を雇う」方向で解決してください。
最後に
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
これまでの私のブログ記事の中でも出色の、長い記事でした。
ここまでたどり着いてくださった方に、深く御礼申し上げます。
このようなことに巻き込まれた人々に、届けたい。
なんだかよくわからないうちに、イベントを仕切らねばならない立場になっている方々。
よかったら、この記事のあちこちに置いてある書類をご活用ください。
また、宇部市で新たにA氏から声をかけられてイベントに出演することになった音楽関係者の方々。
隅々まで読んで、私たちが味わった苦労をなるべく回避できるよう、予防線を張ってください。
また、書類もご活用くださいね。
そのために、時間をかけて記事を書いたのです。
私自身は、もうこのようなことはこりごりです。
でも、少しでも、同じような立場になってしまった方のお役に立てれば幸いに思います。
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