島袋りりあ|沖縄三線とヅラ生活のすゝめ ヅラ生活のすゝめ(すすめ)では円形脱毛症で幼少時に毛髪を失ったウェブマスター島袋りりあが、海外製人毛ウィッグについて思ったことを書き連ねるサイトです。販売ページもあります。沖縄民謡歌手、講師としての活動の記録も兼ねています。ただの雑記もあります。

どうして沖縄の唄は、女性にとってキーが高いのか

この記事は、移転する前のブログから転載&加筆修正したものです(2020.11.14)。

唄うシーサー

 

沖縄民謡を唄ってみたいけど声のキーが高くて無理…という話をよく聞きます。本当に高い?なぜ高い?

自分ひとりで解明しようと意気込んでみたはいいものの

「キーが高すぎて、声が出ない」という話をよく聞きます。

三線を教えていると「なんでこんなに高い声で歌わなきゃいけないんでしょうか」という悲鳴にも似た声を、女性の生徒さんからよく聞きます。

 

この「沖縄民謡は、女性にとってキーが高すぎる?!問題」をもっと深掘りして自分がスッキリ理解し、図解やイラストでわかりやすくお伝えできないだろうか、と数時間ほど頭を悩ませ、検索し、三線をいじり、いろんな歌謡曲の楽譜を引っ張り出し…、そして結局迷宮入りになりそうだった、そんな今日。

 

その絶望感が、ある程度の解決に至るまでの道のりを(長々と)書き記します。

 

図に描いたら、なるほど、という部分とそうではない部分が…。

最初に私が描いた図をご覧ください。

 

三線の音域、男声&女声の声域
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三線の音域(合から七まで)が黄色男性の平均的な声域がブルー女性の平均的な声域を赤で示しています。

 

この図で見る限り、確かにB-E-B以上の調弦であれば、女性はかなり声を張り上げないといけない感じです

しかし、それよりも男性の声と三線の合わなさ加減が目立ちます。一般的には「男性には唄いやすいが、女性にとっては高すぎる」と言われる沖縄民謡ですが、一体どういうことでしょう。

 

本当は、図解することによって、いっぺんに理解したかったのですが、モヤモヤする結果になってしまいました。

 

声域については下記のサイトを参照のうえ、地声の最高音より2音下までを「無理のない範囲」としました。

 

女性の音域を平均・低め・高めの3種類に分けて解説する【参考アーティストも合わせて紹介】

女性アーティストを音域別で3分類すると上記の通りとなります…

男性の音域を平均・低め・高めの3種類に分けて解説する【参考アーティストも合わせて紹介】

男性アーティストの楽曲を分析すると、概ね上記の3分類に分けることができます…

 

元レコーディングエンジニアの友人がたまたまやって来て

アイデアと力を貸してくれました。

うんうん唸りつつWikipediaの「音域」の項目などを読み漁っていたら、LINEがピコーン!と鳴りました。

 

「ひとりで仕事してると煮詰まるから、行っていい?」と、私と同じく個人事業主の友人から。煮詰まっているのは同じです、喜んで!

 

私の事務所に合流し、彼女は資料を広げ私はまたパソコンに向かって唸りつつ調べ始めました。

 

そこで思い出したのが、この友人、昔大手レコード会社にレコーディングエンジニアとして長年勤務していた、という事実。
音についてはプロフェッショナルです。
早速「仕事中悪いけど、三線と女性の声との関係について悩んでるから、助けて!」と切り出すと、ニヤッと笑って身を乗り出してきました。

 

友人の仮説「三線は、女性の声より1オクターブ低い」

友人が私の唄と三線の音を聞いて「あれ?三線は声より低い?1オクターブ下じゃない?」と言い出しました。

 

それ、私も常々思ってたんです。三線だけ聴くと、そんなにキーは高く思えない。でも一緒に唄うと、苦しい。もしかして三線の1オクターブ上で歌ってないか、私たち女性は、と。

 

 

三線が一般に言われているよりも実は1オクターブ下、と仮定して図を書き換えてみました。

 

三線の音域を1オクターブ下に移動
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なるほど、この図で見ると、「男性はD-G-DからC-F-Cのキーで無理なく唄えそうだ」ということがわかります。

逆に、B-E-B以下のキーだと低すぎて大変そうです。実際、「C-F-C以上のキーが、唄うには楽です」とおっしゃる男性が多いのです。

 

では、女性は?

女性はだいぶ上にはみ出しています。友人の仮説通りなら、女性が三線と同じ音域で、地声で唄えそうな調弦は残念ながらなさそうです。かなり低い声の女性ならD-G-Dの調弦で唄えるかもしれない、程度です。

 

三線を伴奏楽器として唄う限りは、地声で楽に唄えるキーなどない、ということでしょう。つまり女性は、三線の音を聴いて、自分の唄いやすいキーを探った上で、苦肉の策として三線の1オクターブ上を唄っているのではないでしょうか。三線と同じキーだと低すぎて声が出ないので、高い声を出すしかない、ということです。

下に、三線の音域(仮説)と女性の声、そして「女性が三線(仮説)の1オクターブ上を唄ったらどれほど苦しいのか」を示した図を入れます。

 

女声の範囲と三線1オクターブ上の比較表
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G-C-G〜A-D-Aなら唄えそうです。三線を弾いている女性の方であれば、G-C-GやA-D-Aであれば、女性でも比較的唄いやすいということに同意してくださるのではないでしょうか。

 

私の講師としての長年の経験で言っても、G-C-G〜A-D-Aなら唄える、という女性の方が多いのです。
そして、B-E-B以上のキーになると高すぎてどうしても唄えない方が出てきます

 

地声がとても低い女性の方であれば、B-E-B以上のキーの曲を「三線(仮説)と同じキーで唄う」選択肢もあるのかもしれませんが、それは一般的ではありません

G-C-Gの曲を普通のキーで唄っているのに、B-E-B以上の曲はその1オクターブ下で唄うように切り替えるには、鋭い音感とボーカルとしての高い技術が必要です。普通の人には混乱を招くだけかと思います。

 

ですので、G-C-Gの曲(1オクターブ上でも歌いやすい)であろうがC-F-Cの曲(1オクターブ上だと多分高く感じる)であろうが、三線(仮説)の1オクターブ上のキーで唄っています(ただし、C-F-Cの曲が女性にとって苦しいかどうかは、曲にもよりますし、人にもよります)。

 

「三線の音は思っているより1オクターブ低い」という友人の仮説(そして私も実感)通りであれば、「沖縄民謡は女性にとってキーが高いのはなぜ?」問題にちゃんと答えが出せそうです。

 

1オクターブ上に聞こえる原因は三線の共鳴音?

さらに、友人は「楽器というのは共鳴するものであるが、三線はその構造と単音だけを弾くという特性上、ピアノやバイオリンなどの他の楽器ほど共鳴しない」と言い出し、説明を始めました。

 

普通、楽器(特に弦楽器)というものは「共鳴することで音を増大させ、膨らませる」ことで響きを出すものであること。その楽器の、他の弦にも共鳴するし、楽器の構造も関係する、またコンサートホールも共鳴を考えて造られていること、など。

 

「三線は弦が3本しかないし、和音を弾かないから、共鳴が少ないんだよ。少ないのに、ぴーん、と高い共鳴音だけ目立つ。で、実際の音はもっと低い。だから正直音が取りにくいし、歌いにくい楽器だと思う。」

 

三線しか弾けず西欧音楽の素地もない私には正直ピンとこない事柄も多く、「えーと、『水の出方』に例えると、他の楽器の音が霧吹きで、三線は、水鉄砲?」と聞いたら「近くはないけど、遠くもない」という顔をして笑ってくれました。

 

琉球大学の論文を発掘!(友人が)

止まらない友人の勢い。とうとう論文を見つけました。

三線の音は一般的に言われているより1オクターブ下ではないか、という仮説をもとに、友人がその場で検索を始め、ものの1分で「あった!」と一つのURLをLINEで送ってくれました。

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三線(サンシン)の音色に関する総合的な評価(1)

http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12000/1475/1/No61p91.pdf

 

琉球大学工学部の粟國朝英(あわくにともひで)氏らの手による、三線の音の響きについての詳細な論文です。

 

興味のある方はぜひリンク先のPDFもご覧ください。
この論文の中で、粟國氏らは「三線の本調子の三絃を中央ハ音」に調弦して検証したことを記しておられます。もう、最初のほう、のっけから。

 

これはつまり、C-F-Cに調弦した際、私たち(やや不勉強な一般の三線弾き)は一弦が中央ハ(mid2C)だと思い込んでいたのに対して、識者は「いやそれは違うじゃろ、君らが思ってるより1オクターブ下じゃわい」と常識としてすでにわかっていた…!という衝撃の事実がここにあるわけです。

 

では、なぜ私たちが三線の音を実際より「1オクターブ上」に感じているのか

上記の論文を読み込むと(本気で理解しているのかどうかの自信はないですが)、三線の音は鳴らした瞬間の音は大きいけれど、すぐに萎んでしまう(音が持続しない)こと、そして「高周波成分の倍音の濃度が高いのに、本来発した基音付近の周波数の濃度が極端に低い」つまり「甲高く聞こえやすい、1オクターブ上に聞こえてしまいやすい」という原理が明かされています。

 

その先は、棹の共鳴が三線の音の響きに関係しているかどうかを検証するくだりに入ります。そこでは、棹の共鳴音だけを取り出すとピアノに近い、甲高くなく落ち着いた印象の音であることも記されています。

 

この部分を読んで思い出したのは、以前一緒に活動していたフルーティスト、Kさんのこと。
彼女は、何度も何度も「三線、調弦合ってますか?」「なんか低く聞こえちゃうんですよ」「離れると、低いです。近くだとちょっと大丈夫」と私に言っていたのです。

 

アタック音が強く、甲高く聞こえる三線。私は自分の身にピッタリくっつくくらいの距離で三線を聞いているので彼女の違和感に気付きにくかったのですが、彼女は私から数メートル離れることでアタック音以外の基音を聞き取ることができた、または「ピアノのように長く柔らかく響く、棹の共鳴を感じ取った」のかもしれません。

 

そして、「三線は共鳴音が少ないのに高い共鳴音だけが目立って響く」という特性を一瞬で言い当てた、元レコーディングエンジニアの友人の耳の良さ、勘の良さにも驚くばかりです。

 

そもそも「三線ありき」の音楽だからこそ。

古い音源では、そんなにキーは高くないのです。

これまで数え切れないくらい聞いた「なんでこんなに唄のキーが高いんですか?」という生徒さんたちの疑問に、今ならちゃんとお答えできます。

 

ズバリ、三線に合わせないといけないから、です。

 

上で長々と述べたように、三線の音(思っているより一オクターブ下)に合わせようとすると、特に女性はかなり無理をして声を張り上げるという選択肢しかない、ということがわかります。

 

古い時代の沖縄民謡は、民衆の間に三線が広まってなかったこともあり、三線の伴奏なしで、アカペラで唄うものでした。手拍子が入ることはあっても、メロディーを奏でる楽器が伴奏することはありませんでした。

実際、古い音源を手に入れて聴いてみますと、三線がない録音は男性も女性も無理のない音域で自然に唄っているのです。

 

長年の謎にケリがついた…、かな?

20年前、私が同じ疑問(なんでこんなに声が高いんですか?)を師匠に聞いたときは「そんなもんなんだ!」で終わりでしたし、このテーマでブログを書きたい、という気持ちと、もちろん友人の急な来襲、というラッキーなハプニングがなければ、謎は謎のままだったはずです。

 

軽ーく1時間程度の執筆で終える予定だったこの記事、ゆうに一日がかりの長文となりました。少々小難しい話になってしまいましたが、三線を弾く方々のお役に立てれば幸いに思います。

 

では、また、来襲!違った、来週!!

 

最後に、元レコーディングエンジニアの友人のサイトを紹介

実は有名人。全国で活躍する整理収納アドバイザーです。

下記のサイトをぜひご覧ください。
「片づけパンダ」で検索してもトップに出ます。

 

山口県宇部市の整理収納アドバイザー 片づけパンダ

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友人であり、恩人の宣伝でした。

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