無邪気だった小学生時代
小学校では、演劇部に入っていました。
ある日の全校集会での演目は、狂言の『附子(ぶす)』を子ども向けにわかりやすくした昔話風のもの。三人の小坊主さんたちが和尚さんの留守の間に「毒だから食べてはダメ」と言われている水飴を食べてしまうけど、知恵を使って和尚さんの叱責を上手にかわす話です。
(あらすじは、こちらをご参照ください。)
私はチビでぽっちゃりなうえに無駄に声がデカかったので、オチ役の小坊主(上記フジパンのサイトでは「かしこい小坊主」)、ちんねんさんの役が割り当てられました。オチと言えど、主役です。
さて、全校集会本番。体育館では全校児童と先生方が、舞台に注目しています。
「留守中に毒を食べてはいけない」ことを言い含めるため小坊主たちを和尚さんが順番に舞台へ呼び出します。二人の小坊主役が舞台に出た後、いよいよ私の出番です。
「ちんねんや〜」と和尚役の子どもの声。ぶかぶかのウィッグの上にさらに先生手作りのハゲヅラを載せている私が「はーい」と叫びながら小走りでドスドス登場。体育館中がドッと笑いで包まれました。
みんなを笑わせたのです。笑われたのではないのです。本当ですよ。
ぶかぶかのウィッグを取ってからハゲヅラをかぶった方が自然だったろうに、先生方が気を遣ったため一周回って面白いことになってしまったわけですが、ウィッグだろうがなんだろうが自分の存在で人を笑わせることができたという経験は自信となり、それまであやふやだった自尊心を持つことにつながったのでした。
他の役の子どもたちの熱演もあり、その時の劇は大成功。
小学校を卒業するまであだ名が「ちんねんさん」でした。いじめられっ子どころではない、はっきりと人気者だったのでした。ハゲなのに。
中学生になると思春期に入るため、そのあたりまた事情が違ってくるのですが…。
バレたくない!
とは言っても中高の6年間で、ウィッグであることによって何か大きな事件が起きたわけではありません。
中学2年生の時に一度だけ、先生がいない掃除の時間に、隣のクラスの人気者男子が話をしたこともない私をいじりに来ました。
それ、カツラでしょ?取って見せて。ねえ、なんで無視するの?
うるさかったので、無言のままその辺に放置してあった保健体育の分厚い教科書を手にとって、その角で思いっきりその男子の頭を殴りました。ものすごく落ち着いて、狙いを外さないよう、ダメージが出るよう、思いっきりやりました。まさに会心の一撃。
ニヤニヤしながら見ていた取り巻きたちも含めて教室中が一瞬で静まりかえり、まさか暴力で反撃されると思わなかった人気者男子は泣きながら退場しました。その男子の人気がそれ以降ガタ落ちだったのはちょっとかわいそうでしたが、この事でいじめの芽は完全に摘まれました。
いじめっ子たちの間では切れたら怖いやつ、ということになったようです。望むところです。
キンタマを狙わなかっただけ、感謝されてもいいくらいです。
また、先生に言いつける人もいなかったようで、このことで叱られるということもなかったのでした。
武勇伝ばかりを書いているようですが、心の中は暗く醜く、ジメジメしていました。
(以下、心の声です)
なんで、こんな病気になっちゃったんだろう。
あの子はあんなに成績悪いのに、顔もそれほど美人ではないのに、きれいな髪を持っている、不公平だ。
髪があればなあ。プールの授業も受けられるのになあ。体操の授業も普通にできたのに。
いつもいつも誰かの手が当たるんじゃないか、カツラが取れちゃうんじゃないか、て気にしながら生活するの嫌だなあ。
それに、カツラ、いくら高くても襟足がすぐにチリチリになってビョーン、とありえない方向に上がっちゃうんだよ。カツラだってことバレバレじゃん。
もっと長いカツラならいいのかなあ。でも、校則で髪が長かったら二つに分けて縛らないといけないし、生え際も分け目も作れないカツラだからそんなことできないし。
未来永劫、彼氏もできないだろうな、結婚もできないんだろうな。嫌だなあ、不便だなあ、不幸だなあ。
小学生の頃に比べたらジメジメと思い悩むことが増え、いつの間にかヅラバレしないことだけを念頭に置きながらの生活が始まっていました。
旅行や合宿も、学校行事でなければ進んで参加することはありませんでした。
カツラなのがバレちゃうから。それは死んでも嫌だったのです。
なんとまだ続きます。